
先日、東京都八王子市の低山地帯をフィールドワーク中に、とても小さな陸貝を見つけました🔍枯れ木の根元、湿った落ち葉の下に潜んでいたその貝は、なんと蓋(ふた)を持っていました。カタツムリに似ているけれど、どこか違う…。そこで、その周辺の落ち葉ごと、タッパーに入れてじっくり観察することにしました。今回のその観察をした陸貝のムシオイガイをご紹介します😊
ムシオイガイとは

ムシオイガイ(Chamalycaeus nipponensis)は、日本固有の陸貝で本州、四国、九州に広く分布しています。直径わずか4mmほどの小さな貝で、殻は低い円錐形。殻頂部付近が赤みを帯び、そのほかは淡黄白色をしています。
殻には“虫のような突起”がついていて、これは「虫様管(ちゅうようかん)」と呼ばれる特殊なシュノーケルのような構造を持っています🤿
この姿が「虫を背負っている」ように見えることから、「虫負貝(ムシオイガイ)」という名がつけられました。
私もルーペとライトを使ってじっくり観察すると、この不思議な“虫”のような突起を確認できました🔍

ムシオイガイの驚きの進化

信州大学の浅見崇比呂氏らの研究では、走査電子顕微鏡を用いてムシオイガイの殻を詳細に観察しました。その結果、虫様管とつながる成長脈には、直径約16μmの極細トンネル構造があることが明らかになりました。
殻の上にある虫様管は密閉されているものの、虫様管につながるトンネルの構造は殻の表面を貫通しており、蓋を閉じた状態でも外気とのガス交換を可能にしているのです。さらに、このような構造を持つことで、呼吸と天敵や寄生虫、水分の蒸発をシャットアウトしているのです😊
つまり、この“ムシ”は単なる飾りではなく、乾燥した陸上環境で生き延びるための高度に進化した呼吸装置だったのです😃
【参考資料】日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨:ムシオイガイの「ムシ」はミクロの通気口
カタツムリとは違う?ムシオイガイの正体
見た目はカタツムリにそっくりなムシオイガイですが、実はまったく別の系統に属する巻貝です。分類上はヤマタニシ科(Cyclophoridae)に属し、カタツムリとは次のような点で異なります😌
特徴 | ヤマタニシ(ムシオイガイ) | カタツムリ |
蓋(ふた) | あり(丸く硬い) | なし |
触角 | 1対 | 大小2対 |
眼の位置 | 触角の付け根 | 触角の先端 |
性別 | 雌雄異体(オスとメスが別) | 雌雄同体(両性具有) |
呼吸器官 | 外套膜腔で空気呼吸 | 肺を使った空気呼吸 |
糞 | 粒状 | ひも状 |
なお、ヤマタニシ科の繁殖は、メスはオスと交尾して卵を育て、産卵します。そして、卵からは直接稚貝が孵化します。
【参考資料】ヤマタニシ科/Wikipediaより

小さな陸貝の観察の方法

ムシオイガイをはじめ、小さな陸貝たちは、落ち葉の下や湿った朽木の裏側などにひっそりと暮らしています。ルーペや虫眼鏡を持ってフィールドに出てみると、普段見逃していた小さな命と出会えるかもしれません。また、その周辺の落ち葉や朽ちた小枝なども一緒に観察すると、小さな陸貝は、アリやタンゴムシなどさまざまな、生き物達と一緒に暮らしていることが分かります。
何気ない自然の空間には、長い年月をかけて培われた生態系が築かれているのです 🌳
特に梅雨の時期は、沢山のカタツムリと出会えるチャンスの時期です🐌
ぜひ自然観察の新しい扉を、開いてみてくださいね 🚪

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